| 読みもの < | ||||||
| 忘れ川をこえた子どもたち | ||||||
| ファンタジーも読みますが、 その、世界を描いたものよりも、人を描いた物語のほうが やっぱり好きです。 この、北欧のファンタジーも、とても印象深く、 何度も読み返す物語のひとつです。 ![]() 誇り高き、貧しいガラス職人のアルベルトには、 妻と、2人の子どもー クラースとクララがいた。 暮らしに余裕はなかったけれど、打ち込める仕事があり、 子どもがいて、なんとかごはんも食べられ、寝るところもあって、 アルベルトは、この生活に、いちおうは満足をしていた。 けれど、妻のソフィアは・・・ ソフィアの胸には、ぽっかりとした穴があって、 そこには、小さな不満やかなしみ、もうすこし豊かになれれば・・ という想いが、いつもあった。 ある、市のたつ日、 思いがけずに、アルベルトのガラスが売れ お金を手にしたふたりは、月の光に導かれるように 夜の市で露天商からある指輪を買った。 こころの穴をみつめるような、 そのあやしく、美しい指輪が、悪いことのはじまりだった。 そして、それから一年もたった、同じ市の日に、 子どもたちが、ふたりの前から、いなくなってしまったのだ・・ ・ ・ ・ 幻想的な、異国の空気。 不思議な力をもつ指輪。 子どもたちのさらわれた、忘れ川のむこうの 町になれなかった町にある、大きな館。 こころに、それぞれの痛みや闇を抱える、館の住人たち。 予言者に、片目の大ガラス。 対決。 いかにもファンタジーらしいアイテムや状況がそろった、 さほど長くもないこの物語が、ゆるぎない普遍性をもち、 長い間、子どもだけでなく、おとなの読者をも満足させられているのは、 神話や伝承をモチーフにしながら、作者が描くのが、生身の人間だから。 彼女の、人間の本質を見る目は、するどく、確かで、 でも、包容力があって、 暗く悪い人ばかりが登場するように感じても、 「昼の目」と「夜の目」を使ってみれば 性根が悪い人はいなくて、みんな自分の思いばかり 不器用に抱えて身動きのとれなくなってしまった人たちだと、わかります。 そして・・・ 北欧の、凛と澄んだ空気のイメージと、よく合った、 全体を通して、厳しく、美しい描写が、すばらしいです。 とっぷりと、そのなかに身を置いて、 想像できるぎりぎりいっぱいの、さみしさや心細さ、 その末に手にする、小さくても、きれいにかがやくよろこびを、 たくさん、感じます。 「忘れ川をこえた子どもたち」 マリア・グリーペ 作 大久保貞子 訳 富山房 1529円 |
||||||