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ベンはアンナが好き
ーおとなは、子どもに向かってよくこういう。
 おまえたちには愛なんて、まだぜんぜんわからない。
 それはおとなになって、はじめてわかるのだ、と。
 そういうとき、おとなは、たくさんのことをわすれてしまったか、
 きみたち子どもとは話したくないか、それともそらとぼけているかだ。
 ベンは、いっとき、アンナがとても好きだった。
 そして、アンナもベンが好きだった。





作者ヘルトリングのこの言葉から、物語ははじまります。


ベンの通うドイツの田舎町の学校に、ポーランドからの
移民の女の子、アンナが転校してきます。

ベンは、ささいなことがきっかけに、アンナを好きになります。
それは本当にささいなことなのですが、ただただ恋に落ちるときの
理屈も何もない瞬間がそのまま描かれてあり、胸をつかれます。
おとなになると、こんな風に鮮やかに恋に落ちることがなかなかできなくなるので、
むしろ子どものほうが、本当の好きになるっていう気持ちを知っているような気がしてきます。

お話のなかで、ベンもアンナも、よく別れ際に駆け出します。
おとなになると、別れ際にはむしろゆっくりとかみしめて歩いたりするのに、
心の中の想いを自分でも持て余してしまうベンやアンナは、
おもわず走り出してしまいます。

もう会えないことを十分わかっていて未練を断ち切るように駆け出すアンナと、
まだのみ込めないごちゃごちゃな想いに、突き動かされるように
駆け出すベンの姿が映し出されるラストは、さわやかで切なくて・・

忘れたくないな、こういう気持ち。


それにしても、冒頭の作者の言葉とは裏腹に、
この本にでてくるおとなは、ふたりの恋をとてもいいやり方で見守ってくれます。
どんな境遇の子どもにも、必ず味方をつけてくれるから、
ヘルトリングって大好き。



「ベンはアンナが好き」
ペーター・ヘルトリング 作 上田真而子 訳 偕成社