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百まいのドレス
「あたし、ドレスを百まいもってる。」

いつも同じ服を着ている、貧しい少女ワンダがそう言っても、
だれも信じる人はいませんでした。
それどころか、その日から、クラスメイトたちはドレスのことで
ワンダをからかうようになりました。

何度からかわれても、同じことを言い続けるワンダと、
クラスの人気者ペニーを中心に習慣のようにくり返される「ドレスごっこ」。

その先にあったものと、
それぞれの心に残したものは・・




いじめをめぐる多くのことについて、正面から描きながらも、
辛さや悲しさではなく、前向きな感情を残すのは、
厳しさではなくやさしさで、丁寧に登場人物の気持ちを掬ってくれているからでしょうか。
ルイス・ストロボキンのさし絵が美しくあたたかいからでしょうか。
ワンダの才能によって、明るい未来を思い浮かべられるからでしょうか。

物語は、よくないこととと思いながらも言いだせない、
ペニーの親友マデラインの心の動き中心に、語られます。

いじめに関わる大多数の人が、このマデラインの立場でしょう。
勇気のなさ、うしろめたさ、自分へのいいわけ、後悔、許されたいきもち、
同じときはもどってこないということ、最後に浮かべる涙の意味まで、
わたし自身、読んでいて、本当に自分のことのように思うのです・・

「ドレスごっこ」のような、無自覚のいじめは、
時間とともに新しい「遊び」に移り変わっていき、
しかけた者は、立ち止まり気づくことのないまま、過ぎていきます。

非難することなく、気がついていない人には気がつかせ、
気がついている人には立ち止まらせてくれる。

自分で気がつけることは、しかられて罰せられるより、
どんなに効いて、救われることか・・

    ・・   ・・   ・・

訳も新たに新装版で、色あざやかに、
しかも、読み物の形で生まれ変わったこの物語。
ちょうどいい年齢の子どもに、
手に取ってもらいやすくなりました。
(お値段も、グッとあがってしまったけれど・・)

1944年に出版されたこの物語が、
60年を経てアメリカで新版となり、さらに日本でもこうして
これからも読み継がれていく意志を持って装いを新たにしたことに、
ただ喜びだけを感じられるのではないことが、さみしいです。



”百まいのドレス”
エレナー・エスティス 作 ルイス・ストロボキン 絵
石井桃子 訳 岩波書店