おとな・ヤングアダルト <
人生の最初の思い出
ほんとうは、言いたかったんだ。
わたしはゆきたくない、と。
パパとママに、そう言いたかった。





家庭の事情から、生まれ育った土地の愛しいものすべてと
離れなければならなくなった女の子の
小さなつぶやきなのか、大きな叫びなのか。
遠い昔の人生の最初の思い出を想いかえす声なのか
それとも、これから思い出になっていく声なのか。

言葉は時々錯綜します。とても自然に。

覚えているのではなく、
血となって肉となってわたしの一部になっているもの。
言葉にすると過去のものになってしまうけれど、
でも今も確かにわたしの中でうごいているもの。

それが、思い出。


作者は、”のっぽのサラ”などで有名な、パトリシア・マクラクランです。
”のっぽのサラ”にでてくるアンナとくらべると
なんて荒々しく、裸の文章なのでしょう。
言葉のはしはしから流れ出る強い感情が胸を刺します。

でも、愛しいものをひとつひとつ、手にとるように並べていくときの
深くあたたかいまなざしや、それを想うときに言葉の底から流れる穏やかさは
まさにこの作者のもの。
希望の光が差し込む、ラストも。


パパが言った。人生の最初の思い出は、
いつでも、じぶんといっしょにあるんだよ。
たとえじぶんでは、すっかりわすれてしまってもね。

いっしょうけんめい、わたしは思いだすようにしよう。
たくさんの歌や、夜明けの、オンドリの鳴く声。
乳牛の耳。ゆびでさわると、
それは、とっても、やわらかかった。

ぜんぶ思いだせる。わたしはいまも。




”人生の最初の思い出”
パトリシア・マクラクラン 作 長田弘 訳 みすず書房